有期雇用契約の留意点

 タイにおける労使間のトラブルのなかでも特に多いのが解雇にまつわるものです。このため、雇用主側としては解雇トラブルを避けるため、契約の終了時期が明示されている有期雇用契約を締結したいという要望も多く、実際に有期雇用契約のもとで労働者を雇用するケースが多いのも事実です。しかし、有期雇用契約に関してはタイ特有のルールがありますので注意が必要です。

有期雇用契約の定義

 タイの労働者保護法において、「労働者」とは「雇用主に労働を提供し、賃金(名称のいかんを問わず)を得ることに合意した者」と定義されているだけで、基本的には無期雇用契約を前提とし、部分的に有期雇用契約に関する条項が定めれているという形式となっています。

 期間の定めのない雇用契約(無期雇用契約)の場合、雇用主または労働者が事前に書面で通知することにより雇用契約を終了させることができます。事前通知は一賃金支払い期前までに行うことが求められます(第17条第2項)。

 これに対して、期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)は雇用主と労働者の合意により期間を定めたものとされますので、事前通知を行うことなく、契約期間最終日をもって契約が満了することになります(第17条第1項)。この意味では雇用主の希望に沿うことができるものとなっています。

 ただし、期間の定めはあるが、契約当事者のいずれか一方にのみ契約の更新や中途解除に関して決定する権利を定めた雇用契約も無期雇用契約とみなされます。
 例えば、雇用契約に試用期間を設定することがほとんどですが、試用期間を設定した雇用契約は期間の定めのない雇用契約とみなされますので(第17条第2項)、たとえ有期雇用契約を締結したとしても試用期間を定めることで無期雇用契約とみなされることになります。これは、雇用主のみの判断により契約の中途解除または更新を決定できるため、期間の定めがあるものとはみなされない、という理屈です。

有期雇用契約と解雇補償金

 もう1点、有期雇用契約で論点となるのが解雇補償金の問題です。

 解雇補償金の規定(第118条第1項)は有期雇用契約の労働者には適用されないと定められていますが(第118条第3項)、ここでいう有期雇用契約は

  • 雇用主の通常の事業もしくは取引とは異なる特別プロジェクトで、始期と終期が確定している業務、業務の終期もしくは完成が確定している一時的業務、または季節的に雇用が生じる季節性業務、のいずれかに該当する業務であること
  • 2年以内に完了する業務であること
  • 雇用主と労働者が雇用開始時に書面で契約を締結していること

の要件を満たす必要があります(第118条第4項)。 

 つまり、2年以内に終了する特別、一時的、臨時的、単発的、季節的な仕事に該当する場合は解雇補償金を支払う義務はありません。

 しかし、これらは解雇補償金支払いの例外規定ですので、有期雇用契約であったとしても、例外規定に該当しない場合は支払い義務が発生します。従って、解雇トラブルの回避を目的に通常の業務について有期雇用契約を締結したとしても解雇補償金の規定が適用されることになります。