タイ労働者保護法の2017年改正点

 2017年9月1日施行の労働者保護法(第6版)の主な改正点は以下の通りです。

就業規則の労働省への提出義務廃止(第108条)

 従来、就業規則の作成・改定において労働省への提出が義務づけられていましたが、この条文が削除されました。この改正は国家平和秩序維持評議会の権限に基づいて2017年4月4日にすでに施行されたものです。

 なお、これまでは労働省への提出時に就業規則の内容がチェックされ、法令に反する部分があれば修正を要求されていました。今回、就業規則の提出義務がなくなったことでこれまでのような手間はなくなりましたが、法令に適した内容となっているかの確認がこれまで以上に必要になってきます。

 あわせて、就業規則の開示方法に関して事業所への掲示に加えて電磁的方法(電子媒体等)による開示も可能となりました。

定年退職に対する解雇補償金支払いの明文化(第118/1条)

 定年退職に対する解雇補償金の支払いは、これまで労働者保護法に定めはないものの最高裁の判決で解雇と同様の扱いとすることが認められてきました。今回の改正ではそれが明文化されたことになります。

 第118/1条第1項では雇用契約や就業規則等で定年退職年齢に関する定めがある場合、定年退職を解雇とみなすと定めました。

 また、第118/1条第2項では雇用契約や就業規則等で定年退職年齢に関する定めがない場合、または定年退職年齢が60歳を超えた年齢に定められている場合、満60歳に達した労働者は30日前までに定年退職の意思を表明することで退職するができるとともに、これに対して雇用主は解雇補償金を支払わなければならない、としました。

 今回の改正は定年退職年齢を法定したわけではなく、定年退職に対する解雇補償金支払いの義務付けがその趣旨ですので、雇用契約や就業規則等に定年退職年齢の定めがあればこれまで通りそれが適用されます。一方、定めがない場合は満60歳を過ぎれば解雇補償金の支払い義務が発生することになりましたので、満60歳が定年退職年齢として取り扱われることになるでしょう。今回初めて労働者保護法に「定年退職」という用語と「満60歳」という年齢が明記された意義は大きいと言えます。

 なお、解雇補償金に関する違反の罰則は6カ月以下の懲役、10万バーツ以下の罰金のいずれかまたはその双方となります(第144条(1))。

(参照)
第118/1条第1項
「雇用主と労働者が合意した、または雇用主が定めた定年退職は第118条第2項に定める解雇とみなす」

第118/1条第2項
「定年退職に関する合意もしくは規定がない場合、または定年退職に関する合意もしくは規定が60歳を超えている場合、満60歳に達した労働者は雇用主に対して定年退職の意思を表明する権利を有し、意思表明を行った日から30日に達したとき効力を発する。雇用主は定年退職となった労働者に対して第118条第1項に基づいて解雇補償金を支払う」

特定の労働者に対する最低賃金の規定(第87条)

 雇用促進および労働者保護を目的として、中央賃金委員会が学生、生徒、障害者、高齢者等の特定の労働者に対する最低賃金を一般労働者に対する最低賃金とは別に設定できるように定めました。これらの労働者は短時間労働等、一般労働者とは労働形態が異なることが多いためです。ただし、一般労働者に対する最低賃金を下回らないことが条件となります。