タイ奨学金債務の給与天引き開始
タイにも政府による奨学金制度があります。1998年にスタートした同制度は高校以上の教育機関に就学する生徒・学生を対象に学費や生活費として奨学金を貸し付けるもので、利息は年利1%、返済期間は15年内(卒業後2年間は返済免除)というのが条件となっています。
しかし、滞納者が多く社会問題になっています。奨学金基金事務局によると、2018年時点で奨学金の債務者約400万人のうち約250万人が滞納しているとのことで、60%以上が滞納していることになります。これに対して、滞納者に対する奨学金返還訴訟は12万件(120億バーツ)に上ります。
政府はこのため、法改正(2017年改正奨学金基金法)を行い、奨学金基金事務局が債務者の資産等に対し情報開示請求ができるようにするとともに、給与支払者(会社等)に対して給与天引きによる返済を要求できるようにしました。今年は公務員や国営企業職員を対象とし、来年には上場企業等の大手民間企業でも導入予定で、その後すべての企業を対象にしていく方針です。奨学金基金事務局から通知があれば速やかに対応する必要がありますのでご留意ください。仮に会社が納付しない場合、月利2%の追加金が加算されることになります。
また、奨学金返済金は個人所得税、社会保険料(プロビデンファンド含む)に次ぐ優先弁済が認められていますので、仮に他に債権者がいたとしても他の債務に優先して天引きする必要があります。
ちなみに、給与天引きが可能な費用は労働者保護法第76条で定められています(下記参照)。今回の奨学金返済金はこのうち第1項の「法律で定めるその他の金銭」に該当しますので、従業員の事前同意は必要ありません。
労働者保護法第76条第1項
- 従業員が支払うべき所得税、法律で定めるその他の金銭
- 労働組合規約に定める組合費
- 協同組合または協同組合に類する組合に対する債務、従業員の利益となる福利厚生を目的とする債務(従業員の事前同意が必要)
- 第10条に定める保証金、従業員の故意または重過失により雇用主に与えた損害金(従業員の事前同意が必要)
- 積立ファンド規約に定める積立金