消費者保護の法務

 日々、タイで日常生活を送るなかで一消費者として商品を購入したり、サービスを利用していることと思います。そのなかで思わぬトラブルに出くわすことも珍しくありません。なかでも問い合わせが多いのが賃貸借契約に関するトラブルですが、そのほとんどがデポジットに関するトラブルです(デポジットが返ってこない、退去時の清掃代、通常損耗または経年劣化から生じる修繕費をデポジットから引かれた等)。

 しかし、こうしたトラブルは一般的に金額が少額なこともあり、弁護士を雇って裁判で争うには費用対効果の面で厳しいという事情があります。

 そこで政府は「仏暦2551年(西暦2008年)消費者事件訴訟法」により消費者事件は口頭での提訴を可能にするとともに(第20条)、裁判所に納付する提訴費用も免除措置としており(第18条)、本人訴訟(弁護士等を選任せず当事者自らが訴訟を行う)のハードルを低くしています。また、消費者事件は被害者が複数になるケースも多いため、消費者保護委員会または消費者保護委員会が認証した協会もしくは財団が消費者に代わって訴訟を行うことも可能としています(第19条)。

 ここでは消費者が関係する「消費者事件」について概要を説明します。

消費者事件とは

 消費者事件訴訟法第3条では「消費者事件」を以下のように定義しています。

第3条
 「消費者事件」とは以下をいう。
(1)消費者(消費者の代理人として訴えの権限を有する者を含む)と事業者との間における民事事件で、商品またはサービスから生じる法律上の権利義務に関する争い
(2)製造物責任法に基づく民事事件
(3)(1)または(2)に関連する民事事件
(4)法律により本法に基づく訴訟が定められた民事事件

 また、訴訟当事者となる「消費者」と『事業者」は以下のように定義されています。

消費者とは

消費者事件訴訟法第3条
「消費者」とは消費者保護法に定める消費者をいい、製造物責任法に定める被害者を含む。

消費者保護法第3条
「消費者」とは、事業者から購入した者もしくはサービスの提供を受けた者、または商品の購入またはサービスの提供を目的として事業者から提案または説得を受けた者をいい、適法に事業者から商品を利用する者およびサービスを受ける者を含む。ただし、金銭的に損害を受けた者であるか否かを問わない。

事業者とは

消費者事件訴訟法第3条
『事業者」とは消費者保護法に定める事業者をいい、製造物責任法に定める事業者を含む。

消費者保護法第3条
「事業者」とは、販売者、販売を目的とする製造者、販売を目的として発注または輸入した者、転売を目的として商品を購入した者、サービス提供者をいい、広告事業者を含む。

製造物責任法第4条
「事業者」とは以下をいう。
(1)製造者または製造委託者
(2)輸入者
(3)製造者、製造委託者、輸入者を明示できない商品販売者
(4)名称、商号、商標、ロゴ、内容を使用または方法の如何を問わず表示し、製造者、製造委託者、輸入者であると解釈される外観を有する者

消費者事件の事例

 一般的に以下の事例が消費者事件に該当すると考えられます。

  • 売買契約(自宅、商業ビル、コンドミニアム、土地、消費財等)
  • 賃貸借契約(自宅、コンドミニアム、アパート等)
  • 割賦販売契約(自動車、二輪車、家電製品等)
  • 請負契約(自宅の建築・増改築・修理等)
  • 商品配送サービス
  • 金融サービス(消費者ローン、クレジットカード、教育ローン等)
  • 保険サービス(生命保険、損害保険等)
  • 危険性のある製造物(食品、化粧品、自動車、家電製品、携帯電話等)
  • 公共サービス(電気、水道、通信等)
  • 健康・美容サービス
  • メディアサービス(新聞、テレビ、ラジオ、インターネット等)
  • 銀行サービス
  • 教育サービス(語学学校、各種学校等)
  • スポーツサービス(フィットネス、ゴルフ場、テニス場、サッカー場等)
  • 管理法人(コンドミニアム、分譲住宅等)

消費者事件に該当しない事例

  • 刑事事件
  • 不法行為事件(危険性のある製造物を除く)
  • 土地所有権に関する事件
  • 家事事件(家庭内の紛争)
  • 専門裁判所管轄事件(労働、税務、破産、知的財産・国際取引)
  • 一般の民事事件(当事者の一方または双方が事業者となる事件ではない、個人間の事件)

消費者事件の訴え

 消費者が訴える場合は事件の生じた場所または事業者の本籍地を管轄する裁判所、事業者が訴える場合は消費者の本籍地を管轄する裁判所が管轄裁判所となります(第17条)。

 また、消費者は口頭または書面のいずれかで訴えることができます(第20条)。

 提訴費用については、消費者が訴える場合、製造物責任に関する訴訟は裁判所への提訴費用が免除されると定められています(第18条)。ただし、上告審の提訴費用は免除されません。また、事業者に対する免除措置はありません。
 サービスに関する提訴は免除されない可能性もありますが、実務上は免除されることがほとんどです。免除されない場合でも、訴訟金額が30万バーツ以下の場合、提訴費用は通常の訴訟と同じですが(訴訟金額の2%)、上限が1,000バーツとなっています。

消費者保護委員会事務局

 一方、消費者保護委員会事務局(OFFCIE OF THE CONSUMER PROTECTION BOARD=OCPB)は、首相府傘下で消費者保護行政を統括する行政機関で、消費者保護事案に関する訴えも受け付けています。タイ語と英語のみですがウェブサイトからも訴えを送ることができます。ここでは相手方を呼び出して調停を行うという機能もありますが、行政機関ですので対応が遅い等の場合もあります。

https://www.ocpb.go.th/index.php?filename=index タイ語

https://www.ocpb.go.th/ewtadmin/ewt/ocpb_en/ 英語